危険な人間関係

臨床の現場では、ストレスの原因が、明らかに本人の認知や考え方などにはなく、職場や家族、パートナーシップといった回避困難な関係、それも特定の人物に起因するケースに多く遭遇します。

残念ながら、意図的に相手を陥れたり利用したりする人たち、いわゆるナルシシスト*は、私たちの身近に存在します。

ソーシャル・メディアなどで、以前に比べ、実際の努力や実績を積まなくとも、気軽に他人からの注目や称賛を集めることができ、消費主義的な成功が賞賛される現代は、ナルシシストの行動を助長する要因に満ちている、まさに「ナルシシストの時代」だといえます(1)。

自分の利益のために他人をコントロールし平気で利用する、自他境界線が薄い、他人に対する共感が希薄、自分は特別扱いされるべきだという特権意識がある、いつも他人からの称賛を求める、自己認識がほとんどない、良心の呵責なく嘘をつく、などがナルシシストの特徴です。その70%が男性だといわれています(2)。報酬や動機付けを司る大脳の前線条体脳の構造上の問題との関連性に関する研究(2)など、脳機能からその原因を読み解く論文も多くありますが、本人の生育歴や文化的背景も深く関連しているため、ナルシシストが形成される原因は単純なものではないようです。

日本では、モラハラ、モラ夫、毒親といわれる人々のなかに多く見かけられるナルシシストは、DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)で診断される、自己愛性人格障害や典型的な自我肥大したタイプが主流です。しかし、一見控えめで目立たず、どうして自分は認められないのかと、世のなかに対して恨みや被害者意識を持っている「隠れナルシシスト(covert narcissist)」といったタイプも存在するため、被害に遭わないために、ナルシシストに関する知識をアップ・デートするのはとても大切です。

ナルシシストのターゲットには、誰もがなり得ます。特に狙われやすいのは、何か問題があると、自分に非があると思いがちな自罰的傾向があり、相手の欠点を良いように解釈しやすく、自己主張が控えめ、といった特徴を持つ人たちです。このような傾向を持つ、いわゆる「良い人」が、ナルシシストの主食である、称賛や注目の「エネルギーの供給源 (narcissistic supply)」にされやすい事実は、とても残念なことです。

ナルシシストから被害を受けないためには、まず徹底的に関わらないことが大切です。

それが不可能な場合は、違和感や警報を発している自分の感覚を信じ、精神的にも物理的にも境界線を意識し、距離を置くことが重要となってきます。

ナルシシストとの関係に長く留まると、長期反復的なトラウマ体験のあとに見られる「複雑性PTSD(CPTSD, Complex post traumatic stress disorder)」(4)といった症状に陥る可能性が高まります。なぜなら、ナルシシストは、嘘や脅しを用いて相手の現実を否定し、その人の自信や自己価値感などを下げることでコントロール権を獲得して、有利な状況を絶えず作り出そうとするからです。そのため、被害を受けている人は、「自分は大げさなのではないだろうか?」など、徐々に自分の感覚や考えに対する疑いが大きくなり、絶えず思考と感情が混乱するため、自分を守ったり、そこから抜け出したりするエネルギーが枯渇していきます。

このような関係性から抜け出すには、冷静に事実を指摘してくれる第三者がそばにいない限り困難だといえるでしょう。

自分が被害に遭っているかもしれないと感じたら、ナルシシズムに理解のある心理セラピストや、ナルシシストとの関係によるダメージからのリカバリーを専門にしているコーチなどに相談することを強くお勧めします。

by ナチュロパシー・ジャパン/麻実

 

*この記事内では、精神科などで自己愛性人格障害と診断されるケースだけでなく、ナルシシストの特徴を複数、色濃く持つ人々を指しています。

参照:

  1. Ramani, D. (2015). Should I Stay or Should I GO?: Surviving a Relationship with a Narcissist. Post Hiss Press.
  2. Kacel, E. et al. (2017). ‘Narcissistic Personality Disorder in Clinical Health Psychology Practice: Case Studies of Comorbid Psychological Distress and Life-Limiting Illness’. Behavioral Medicine, 43(3), pp.156-164.
  3. Chester, D. et al. (2015). ‘Narcissism is associated with weakened frontostriatal connectivity: a DTI study’. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 11(7), pp.1036-1040.
  4. Giourou, E. et al. (2018). ‘Complex posttraumatic stress disorder: The need to consolidate a distinct clinical syndrome or to reevaluate features of psychiatric disorders following interpersonal trauma?’. World Journal of Psychiatry, 8(1), pp.12-19.