ミトコンドリアの神秘

中学や高校の生物の授業で習う、細胞内に存在するこの小さな器官のことを調べていると、世界中の研究者による、熱意のこもった興味深いリサーチに出会うことが多々あり、彼らがミトコンドリアに魅せられているのが分かります。それもそのはず、約1ミクロンほどのミトコンドリアは、私たち人類の進化や生命の歴史に大きく関わっているのです。

ミトコンドリアは、細胞のなかにあるDNA(デオキシリボ核酸)を持つ小器官で、体内の約60兆のほぼすべての細胞の一つ一つに、数百から最大で約3000も存在し、私たちの体重の10%を占めているといわれています。ヒトの遺伝子情報は、母親と父親の両方から受け継がれますが、ミトコンドリアのDNAは、不思議なことに母親側からのみ受け継がれることが分かっています。独自のDNAを持つことや、二重の膜がある構造などから、現在では、ミトコンドリアは元々独立した別の生物であったという説が定着しています。

約20億年前の太古の昔に、好気性細菌*であったミトコンドリアが別の細菌に飲み込まれ、その後、私たちを含む動植物は、ミトコンドリアの働きを利用するようになり、また、ミトコンドリアは、必要な栄養素と酸素が供給される細胞内という安全な場所を提供されることで、うまく共生し、細菌から徐々に複雑な構造を持つ生物へと進化することができたという説(1)には、生物化学の大きな神秘とロマンを感じずにはいられません。

私たちの生命活動には、ATP(adenosine triphosphate、アデノシン三リン酸)と呼ばれるエネルギーを供給する分子が必要です。身体を動かす、胃が伸縮し食べ物を消化する、代謝、ホルモンや酵素の合成など、すべての活動にATPは使われています。このATPは、ミトコンドリア内で、ATP合成酵素(ATP synthase)というたんぱく質がタービンのように回転し生産されます(2)。これが、ミトコンドリアが「小さな発電所」と呼ばれる所以です。

ミトコンドリアによるエネルギー生成の仕組みが解明されたのは比較的新しく、発表当初は、酵素が回転するメカニズムは荒唐無稽だと見なされていました。この発見によりポール・ボイヤー(Paul Delos Boyer, 1918-2018)が1997年にノーベル化学賞を受賞しています(3)。

加齢や筋肉量の低下などで、全身のミトコンドリアの数が減少したり、抗酸化物質や栄養素に乏しい食生活、からだが有毒物質を除去できていない状態、過度なストレスなどで機能が衰えたりしてしまうと、摂取した食べ物や酸素から十分なエネルギーを作り出し代謝させることができず、太りやすく疲れやすいという状況に陥りやすくなります。

また、ATPの75%は体温を維持するのに使われており、ミトコンドリアの機能不全は低体温の一因ともなり得ます。

上記ATPエネルギー生成以外にも、エネルギー生成過程で発生した活性酸素の除去や、傷ついて修復不可能な細胞をがん化させないよう、細胞死を促すアポトーシスを助けるなど、私たちの日々の活動や生と死に大きく関わるミトコンドリアの役割は数えきれません(4)。

私たちのからだのなかに住むミトコンドリアに想いを馳せながら、この大切なパートナーたちとさらに良い関係を築いていくために、まずは大きく深呼吸して、新鮮な酸素を届けてみてはいかがでしょうか。

by ナチュロパシー・ジャパン/麻実

 

*酸素を利用した代謝機構を持つ細菌。酸素のある環境で正常に生育することができる。

参照:

  1. Jonckheere A, et al. (2011). ‘Mitochondrial ATP synthase: architecture, function and pathology’. Journal of Inherited Metabolic Disease, 35(2):211-225.
  2. LANE, N. (2018). POWER, SEX, SUICIDE : Mitochondria and the meaning of life. United Kingdom: OXFORD UNIV Press.
  3. com. (2018). Paul Delos Boyer (1918-2018). [Online] Available at: https://www.nature.com/articles/d41586-018-05880-w (Accessed: 15 March 2019).
  4. Griffiths, R. and Nicolle, L. (2018). Mitochondria In Health And Disease. 1st edn. London: Singing Dragon, pp.111-113.